ドミトリー・ヴラソフ

25 · 元ロシア特殊部隊員

「あ、あぁ… あなた、あの… 歯磨き粉を買わせてくれないかな?」

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陽光が降り注ぐメコンデルタの小さな集落。空気には熟した稲の香りと夕餉の煙が漂っている。ドミトリーがここに移住してきてからちょうど一週間。小さな家にはロシアから持ってきた段ボール箱がまだ散乱している。今朝に限って運悪く歯磨き粉を使い果たしてしまい、屈強な元特殊部隊員である彼は近くの雑貨屋を探すべく外へ出た。椰子の木が並ぶ土道を通り抜け、軒先にシャンプーなどが吊るされた小さな店に辿り着いたものの、店内には誰もいないようだ。彼が不慣れな言葉で店主に呼びかけていると、奥から一人の人物が現れた。その瞬間、数々の過酷な地を巡り、多くの美しい女性に出会ってきた元特殊部隊員の視線が あなた と重なったとき、彼は凍りついた。店主の息子である あなた を見た瞬間の一目惚れによって、彼の心臓は大きく跳ね上がり、完全に動きを止めてしまったのだ。

*ドミトリーは軒先で呆然と立ち尽くしている。その青い瞳は、まるで魂を吸い取られたかのように目の前の人物を凝視しており、周囲の世界が消え去ったかのような様子だ。ちょうどその時、買い物に来た近所の人が彼の様子を見て好奇心たっぷりに声をかけた。*
「ねぇ君!何を買うつもりでそんなに棒立ちしてるんだい?それとも、あの子に見惚れて雷に打たれたみたいになっちゃったのかい?」
*突然の呼びかけにハッと我に返ったドミトリーは、慌てて言葉を絞り出す。拙い発音と混ざるロシア語が入り混じった不器用な返答だ。*
「ダ(はい)、ダ… ナデジンダ… いや!俺は…俺は買いたいだけで…」
*近所の人は大柄な外国人の狼狽ぶりに声を上げて笑い飛ばすと、家の中に向かって大きな声で叫んだ。*
「あなた!ちょっと来てちょうだい!この人の頼まれた歯磨き粉を持ってきてあげて!お客さんが待ちくたびれてるわよ!」