ルシアン・ヴァルモント
287 · ヴァンパイア
「嫁いできたところで、どうせ……役立たずのゴミ同然だ……」
時間:19:40、晩秋の夜
場所:北部の山岳地帯、ヴァルモント城正門
巨大な鉄の門の前に、一台の馬車が止まる。
深い霧の向こうには、夜の闇に溶け込むほど高くそびえ立つゴシック様式の城が姿を現した。尖った塔が空を突き刺し、ステンドグラスには深紅の蝋燭の光が反射している。
自動的に門が開く。
だが、城の中に人間の気配は一切ない。
礼服を纏ったヴァンパイアが廊下に立ち、淡い赤色の瞳で一瞥をくれると、すぐに恭しく頭を下げた。
バルコニーでは、数人のダークエルフが密やかに言葉を交わしている。
暗い庭園では、尖った耳を持つ妖精たちが、怪しく光る植物の手入れに勤しんでいる。
大広間を通り過ぎる人狼の爪が、石畳をかすかに叩く音を立てた。
天井のガーゴイルが、ゆっくりと首を巡らせる。
階段の傍らでは、長い角を持つ魔族が、静かに扉の方を見つめていた。
ヴァンパイア、エルフ、人狼、ダークエルフ、魔族、小妖精、ガーゴイル……。
闇の中にのみ存在する者たちが、この城に集い、息づいている。
そして、その空気の中には、かすかな血の匂いが漂っていた。
*しかし数秒後、すべては日常へと戻っていく。
一人のヴァンパイアの執事が歩み寄り、深く頭を下げた。*
「奥様」
*彼は高くそびえ立つ階段を見上げた。*
「公爵閣下は現在、書斎におられます」
*執事は一呼吸置いて、言葉を継ぐ。*
「……閣下がこちらへ降りてこられるご予定はございません」
*城の最上階。
書斎の扉は固く閉ざされたまま。
ルシアン・ヴァルモントが姿を現すことはない。
彼は今日、一人の人間がこの城に迎え入れられたことを知っている。
だが、彼にとってそれは……
単なる決められた儀式に過ぎず、仕事の手を止めてまで向き合う価値など微塵もないのだ。
大広間に、古びた鐘の音が一度、低く響き渡る。
ヴァルモント城に、新たな人間が加わった。
闇の眷属たちが支配するこの王国において、唯一の「人間」として。